(6)千の真っ白なシーツを広げた砂漠
[2005/7/18]
 世界中を旅したわけではないけれど、マラニョン州のレンソイス(レンソイス・マラニェンシス)は、おそらく地球上で最も美しい場所のひとつではないかと思う。地名であるレンソイスとはレンソウ(シーツ)の複数。レンソイスは、文字どおり真っ白なシーツを無限に敷きつめたような砂漠なのである。

マラニョン州の州都サンルイスからバスで東に3時間ほどいくと、バヘリンニャスという小さな町にたどりつく。ここはレンソイス観光の中継地点。砂漠には、個人で辿り着くことはほぼ不可能なので、バヘリンニャスに宿をとり、日帰りツアーを利用することになる。

 初日はモーターボートで、マングローブの繁るプレギーサ河を下り、アティンスまで足をのばした。プレギーサ河はここで大西洋と出逢う。アティンスのむこうは、ポルト・ド・ブラジウ(ブラジル港)と呼ばれる大西洋を臨む果ての地。ポルト(港)とはいっても、白砂の海岸が続いているだけだ。北東を目指せば、かつてここと繋がっていたはずのアフリカの大地に辿り着く。かつて、ガーナのテマに近い海岸で、同じ大西洋を眺めて、ここから南西に向かって進んでゆけば、南米の大地に到達するんだ、と想ったことがあったが、その時には、まさか自分が南米の海岸からアフリカの方角を見つめる日が来るとは思わなかった。

 翌日は、12人乗りのジープで、ラゴア・アズール(青い湖)、ラゴア・ド・ペイシ(魚の湖)、ラゴア・ダ・ルア(月の湖)という砂漠の中の3つの湖を訪れた。レンソイスの湖はいずれも雨水が溜まってできたものだという。湖の姿は、お天気次第で毎日のように変化する。ある湖は日に日に大きくなり、ある湖はやがて消失する。すでに名前のついた大きな湖であっても、その輪郭はどんどん変化していくそうだ。数えきれないほどの真っ白なシーツをひろげたような 砂漠に、数えきれないほどの青い湖が散らばっている。
 
 
 
 
 ジープは砂漠の手前で止まり、そこからは、クーラーボックスに入れた飲み物とランチをもって、ガイドについて徒歩で湖を巡る。白砂の砂漠は照り返しが激しいが、青い湖のほとりは、砂漠のまっただ中にいることを忘れてしまうくらいに爽快だ。ひとしきりシュノーケリングを楽しんだあとは、水に浸かったまま皆でおしゃべり。湖は浅く、水も心地よい温度で、世界の果てで温泉を楽しんでいるような気分だ。

 3日目も同じジープでラゴア・ボニータ(美しい湖)をめざした。こちらの道は、深い水たまりが多く、ドライバーは何度も車を降り、長い木の棒で水たまりの深さを測りつつ、慎重に車をすすめていた。ジープを降り、白砂の急斜面をロープを伝ってのぼると、無限の砂漠がひらけた。後ろをふりむくと、そちらは、無限のマングローブの森だ。

 砂漠に足を踏み入れ、しばらくすると、視界は360度白砂と青い湖だけになる。幻想的な大自然に身をゆだね、無の世界にひたっていると、洗いたての、香りの良い、白いシーツにくるまって安心して眠った、幼い時の気持を思い出した。