韓国夢幻
[東京新聞・中日新聞 2006年5月14日]
[日刊ゲンダイ 2006年4月22日号]
韓国夢幻
伊藤 亜人著
 朝鮮半島の最南端に珍島(チンド)という小さな島がある。文化人類学者である著者はこの島をフィールドワークの地に選んだ。1970年代の初めから今日まで34年にわたって通い、村人とともに生活し、研究を続けてきた。著者と珍島との間には学者と研究対象の域を超えた深い交流が生まれている。
 この本は研究書ではなく、珍島で見聞したことをつづった文章と、著者が撮った1970年代の珍島のモノクロ写真約180点で構成されている。わらぶき屋根の家、土間のかまど、粗末な食器が並んだちゃぶ台、水田の田植え、おかっぱの少女とイガグリ頭の少年たち。30年前の島の風景は終戦後間もない日本の農村の風景と重なる。韓国と日本が民族的にも、民俗的にも近い国であることに改めて気づかされる。文化人類学者がファインダー越しに切り取った韓国の原風景は、隣国の知られざる一面を見せてくれている。
(新宿書房 1800円)
[日本経済新聞 2006年5月7日]
[サンデー毎日 2006年4月23日号]
本の詳細を見る→<ISBN4-88008-350-X