(88)ふたりの著者の本(その2)
[2023/7/1]

前回のコラムのつづきである。
今回は、かわいい小さな本の紹介である。
『アラブ・地中海の小さな国 チュニジアっていいところ。』(堀ミチヨ著、イマココブックス、2023年5月)四六判並製 178ページ 編集・デザイン:堀里栄+堀ミチヨ
カバー:4色 帯:1色 表紙:1色 本文:4色


カバー・帯

著者の堀ミチヨさんは新宿書房から2冊の本を出している。
『女湯に浮かんでみれば。―湯気の向こうに裸が見える。裸の向こうにこの世が見える。』(新宿書房、2009年)イラスト:堀ミチヨ
『神保町 タンゴ喫茶 劇場』(新宿書房、2011年)写真:大木茂
いずれもミチヨさんが35歳、37歳の時の本だ。しかし1974年生まれのミチヨさんは2012年、38歳で亡くなっている。
昨年の10月末だろうか、妹の里栄(さとえ)さんからメールをいただいた。姉と2005年に手作りの本を出したことがある。これを正式に出版したいので、助けてくれないかという話だった。さっそく、その本が送られてきた。それが今回の原本、ダミー本だ。2005年の8月、町のKinko’s で5部を作ったそうだ。タイトルは『アラブ・地中海の小さな国 チュニジアっていいところ。』(文 ほりみちよ 写真 ほりさとえ)となっており、サイズは128ミリ×185ミリ、178ページ並製。カバー4色、表紙白、本文4色だった。里栄さんは原本をスキャンして出版したいが、要訂正が20箇所あり、写真も変えたいという。原本を作ったところで、ミチヨさんは出版社をまわったが、どこも相手をしてくれず、それからこの本は眠っていたわけだ。私がミチヨさんに出会う前にこのような本の前史があったのだ。

堀ミチヨ小史
2001~2003 チュニジア滞在
2003 妹・里栄、3週間のチュニジア旅行、姉と合流
2004 小冊子『古町(こまち)風歩(ふうほ)』に「銭湯小話」を寄稿
2004~ 神田神保町のタンゴ喫茶・ミロンガでウエイトレスとして働き出す
2005 8月 原本(ダミー本)5冊完成 出版社まわり
2007 日本文芸社の『blog荷風』に町歩きエッセーを掲載
2007 『ここは世界一、古本屋がたくさん集まっているという町の小さな喫茶店』(和綴じ本)を限定出版
2009 『女湯に浮かんでみれば。―湯気の向こうに裸が見える。裸の向こうにこの世が見える。』刊行
2011 『神保町 タンゴ喫茶 劇場』刊行
2012 病死

さっそく、この出版の話をモリモト印刷の井野晃資さんにつないだ。いろいろ直しや写真の差し替えもあり、印刷の見積りから考えても原本からのスキャンはやめ、本文は元データのクウォークからインデザインへ変換することになった。ここから、一級建築士であり子育て中の里栄さんの頑張りが始まる。もちろん、母親の千加子さんも強力な後方支援をする。原本は一人の女性が長期に滞在してつかんだ人間観察記、チュニジアについての愛にあふれた、小さな生活文化事典だ。写真、コラムもあり、脚注も詳細をきわめる。
昨年から印刷工場に入稿した5月初旬までの里栄さんとのメールのやり取りを、見てみる。実に40通以上もあった。里栄さんの質問は細かく厳しい。こうしてすべてが彼女の手で完成したのだ。2月、里栄さんは風邪で体調を崩し、作業が止まったこともあったが、ほんとうにがんばった。途中、堀さん親子を元気づけようと、スタッフの加納さんがPR雑誌『一冊の本』(朝日新聞出版、2023年2月号)にミチヨ本2冊の広告を掲載したこともあった。


『一冊の本』の広告

さて奥付の校正紙を見ると、ある時点まで発行は新宿書房になっていた。しかし、これから長い時間をかけて本書を売ることを考え、自分たちの出版社を立ち上げることを強く勧めた。ここに「イマココブックス」が誕生したのである。日本図書コード管理センターに申請し、ISBNを獲得、国会図書館への納本も済んだ。国会図書館でサーチすると、堀ミチヨさんの本が3冊出てくる。
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I032853931-00
https://iss.ndl.go.jp/books?ar=4e1f&rft.au=堀ミチヨ...
最後に、モリモト印刷の井野さんには感謝でいっぱいだ。カバー、帯、表紙、本文の用紙の選択に悩む堀親子の相談役として、入稿データ、白焼きの管理、すべてを丁寧に対応してくれた。本文の文字、普通は100パーセントのスミなのだが、これを里栄さんはスミ90パーセントに指定。よく見ると網点がみえるようだ。井野さん、ほんとうにご苦労様でした。

参考サイト:
1)イマココブックス:
〒112-0011 東京都文京区千石3-41-15
電話・ファクス:03-3941-1253
e-mail:imacocobooks@gmail.com

2)本コラム(59) 神保町タンゴ喫茶に1冊の本を遺していった人
http://shinjuku-shobo.co.jp/column/data/shirasagi/059.html