(64)落葉へらへら・・・
[2022/12/10]

落葉へらへら顔をゆがめて笑ふ事(尾崎放哉)。こんな顔をして、今日も隣近辺を散歩しているのだろうか。狭い路地、ガス工事、水道工事、道路舗装整備工事がそこかしこで行われている。北から寒い風も吹いてくる。これからの季節、私の両膝の新客にはひとしきり寒さがこたえるに違いない。迂回を繰りかえしながらどうやらこうやら茅屋に戻り、2階の事務所へ。机の上に散らかった郵便物、宅配物を片付ける。

『大道芸アジア月報』
12月号が配信されてきた。主宰者は大道芸人・大道芸研究家の上島敏昭さん。『見世物小屋の文化誌』(新宿書房、1999年)の編著者のひとりであり、見世物学会の仲間でもある。『見世物小屋の文化誌』の重版の際に上島敏昭選・特別付録「見世物関連書籍目録(抄)2000年~2016年」(6p)、「追補(2017年~2019年1月)」(1p)を作ってくれた。これはかなりの労作だ。
今号は「大道芸関連本の紹介」に注目した。まず『江戸にラクダがやって来た――日本人の異国・自国の形成(川添裕著、岩波書店)。文政から天保にかけて、オランダ船に乗って長崎にやって来た雄雌2頭のヒトコブラクダが、大坂、江戸、名古屋をはじめ全国各地を見世物巡業する。その様子を浮世絵やビラ、文化人の見聞記などの資料で丹念にたどる。やがて雌のラクダが死に、雄一頭になってからもなんと10年以上(!)興行が続いたという。実は著者の川添さんは平凡社の後輩で、いまや見世物研究の第一人者である。そもそも私と見世物をつなげてくれたひとりが、この川添さんだ。1999年のあたりか、当時、私の出稼ぎ先であったマイクロソフトの笹塚事務所に、平凡社で出せなくなった企画の相談をしに彼がやってきたのだ。それが新宿書房で出版した「人間ポンプ」への聞き取り、『見世物稼業――安田里美一代記』(鵜飼正樹著、2000年)である。
次に『進駐軍を笑わせろ!――米軍慰問の演芸史(青木深著、平凡社)。GHQによる占領軍、いわゆる進駐軍への慰問が行われたのは敗戦後の占領期から朝鮮戦争をへて、1950年代後半にかけての10年ほどのことのようだ。全国の米軍基地や、都市部や観光地で米軍が接収した施設やビルの中に設けられた娯楽施設が会場だった。観客は米軍人と家族のみで、日本語が使えないため、しゃべりや物語もない身体と道具を駆使したパフォーマンスだった。それらはダンス、ジャグリング、太神楽(だいかぐら)曲芸、サーカスの軽業や足芸、自転車乗り、奇術、紙切り、百面相、人間ポンプ、居合抜き、即興の漫画描き、指笛などの芸だった。戦後の進駐軍の歴史においても貴重な記録だろう。
そして最後に紹介しているのが、『紙芝居がはじまるでぇ――大塚珠代・街頭紙芝居半生記(大塚珠代著、ライティング工房)だ。著者は大阪を拠点に活動する街頭紙芝居師。著者は紙芝居を始めた1981年当時、20代前半の、それも女性街頭紙芝居師は珍しかった。その頃、大阪府には1983年まで「紙しばい業者条例」があって、これにもとづいて「紙しばい業者免許証」が交付されていたという。この取得のため、大阪には「紙芝居業者試験対策講座」というものがあったという話もおもしろい。本書は自費出版だそうで、制作元のライティング工房(山形県鶴岡市)の社主も街頭紙芝居師だ。

『声は届くか~秘蔵フィルムが映し出す 1969新宿西口地下広場~
これはNHK-BS1で2022年11月26日(23:00~23:50)に放送されたドキュメンタリー。『1969新宿西口地下広場』(大木晴子+鈴木一誌編著、新宿書房、2014年)は、この新宿西口地下広場のフォークゲリラを記録した映画『’69春~秋 地下広場』(製作・監督=大内田圭弥、1970年、16ミリ、84分)を徹底的に読み解いた本。このドキュメンター映画のDVDが本の付録となっている。「この番組企画の始まりは1本のフィルムとの出会いからでした。〈新宿西口地下広場〉で記録された人々の〈声〉は、令和の時代の今にどのように届いているのでしょうか?番組は、フィルムに登場した市井の人々の〈今〉を追いかけます。熱弁をふるった学生。通りすがりのサラリーマン。集会を止めようとした機動隊。彼らは今・・・。」(番組概要資料より)
フォークゲリラの歌姫として登場する大木晴子さん、吉岡忍さん、伊津信之介さん、そしていまこの時代を追いかける若い研究者などが登場する。しかし、熱弁をふるった学生、通りすがりのサラリーマンは、この映画に記録された自分たちを、今どう思うのだろうか?番組が「証言ドキュメンタリー」とうたうなら、もう少し丹念に彼らの〈今〉を追いかけてほしかった。

『三池の捨て子――炭鉱のカナリア 東川絹子炭鉱エッセイ集
これは本コラム(60『カンテラ』が灯す光)で登場した鵜飼雅則さんの紹介で著者・東川絹子(ひがしかわ・きぬこ)さんからいただいたエッセイ集だ。A5判並製64頁、発行日は2022年11月9日、自費出版だそうだ。
鵜飼さんが送ってくれた1枚の「愛読者はがき」から、関西で2017年に開催された「炭鉱の記憶と関西―三池炭鉱閉山20年展―」や同展から生まれた炭都三池文化研究会、そして同会の会報『カンテラ』の存在を教えていただいた。東川絹子さんは「炭鉱の記憶と関西―三池炭鉱閉山20年展―」に協力している。『三池の捨て子』には、この関西展の図録や詩の同人誌など書き継いできた三池炭鉱社宅(四ッ山社宅)の生活と文化について考察した19の作品が収録されている。

  
表紙               裏 

表紙(表)の写真について、鵜飼さんは次のように解説してくれた。[本の表紙を飾っているのは炭鉱社宅の「炭っ子」グループの子どもたちの写真で、親が第一組合の子も第二組合の子も区別することなくグループに加わっていたそうです。自分たちで考案した鉢巻きをしめて親の闘争を支援している子どもたちもたくさん写っています。]

東川絹子さんは、大牟田の高校卒業後、京都市内の大学生協食堂部に勤務。関西在住のメンバーで構成する「関西・炭鉱と記憶の会」の会員として、「三池労働争議50年展」(京都、2010年)、「むかし炭鉱、いま原発 三池炭鉱炭じん爆発50年展」(京都、2013年)などの企画に参加されている。