ベント・ハーメルが手がけたブコウスキーの映画

[2005/12/5]

 チャールズ・ブコウスキーといえば、知る人ぞ知るアメリカの詩人・作家である。生前の彼へのインタビューなど貴重な映像を満載し、彼の生涯を紹介するドキュメンタリー『ブコウスキー:オールドパンク』(Bukowski:Born into This)が、12月16日まで、渋谷のシネ アミューズでレイトショー公開されているので、ご覧になった方も多いだろう。
 
 もちろんこのドキュメンタリーでも紹介されているが、彼は「くそったれ!少年時代」(Ham on Rye)、「勝手に生きろ!」(Factotum)、「ポスト・オフィス」(Post Office)と自伝的長編小説を3作残している。邦訳は「くそったれ!少年時代」が河出文庫版で入手可能である。しかし「勝手に生きろ!」は学研文庫、「ポスト・オフィス」は幻冬舎アウトロー文庫からそれぞれ出されたものの、現在は絶版のようだ。
 
 この自伝3作のうち、彼がロスの郵便局に就職して、腰を落ち着けて創作活動に入る前、グレイハウンドの大陸横断バスでアメリカを転々としていた放浪時代を描いたのが「勝手に生きろ」である。この作品が、ノルウェーのベント・ハーメル監督(221ページ)によって映画化されたことは「北欧映画──完全ガイド」の中でも少しふれた(190ページ)。彼の過去の作品としては『卵の番人』(111ページ)、『キッチン・ストーリー』(178ページ)が日本でも公開されている。この「Factotum」は『キッチン・ストーリー』の次の作品で、現在のところ最新作である。本作ではハーメル監督は初めてアメリカ(ミネソタ州)ロケを行い、キャストもチナスキー役にマット・ディロン、ジャン役でリリ・テイラーら全面的にアメリカ人を起用。初の本格的な英語作品となって、新たな転機を感じさせる意欲作ともなっているようだ。
 
 今春からカンヌ国際映画祭など多くの映画祭で上映され、本国ノルウェーではすでに劇場公開は終了している。現在はフランスとイギリスで劇場公開が始まったばかりだが、他のヨーロッパ諸国での公開も予定され、来年2月にはアメリカでも公開されるという。日本での公開は未定のようだが、ブコウスキーのファンはドキュメンタリーフィルムが単館レイトショー公開でロングランできるほどには存在するのだから、どんな形であれぜひ公開して欲しいものだ。ついでに原作本も復刊してもらって、この作家の素晴らしさが少しでも多くの人々に伝わるといいのだが。
 
 日本での本編の上映は、まだどうなるかわからないものの、下記ホームページから予告編をみることができるので、作品の雰囲気を少し味わってみてはどうだろうか。

※なお、ブコウスキーの詩集「ブコウスキーの尾が北向けば…」(改定新版)、「ブコウスキーの3ダース」「モノマネ鳥よ、おれの幸運を願え」「ブコウスキー詩集」は小社より好評発売中です。

「Factotum」公式サイト(英語):http://www.iconmovies.co.uk/factotum/
『ブコウスキー:オールドパンク』公式サイト:http://www.zaziefilms.com/bukowski/

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